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研究データに対する適正でないクレジット

ラモスはある化学会社の社長である。研究開発の一環として、ラモスはある有名大学の化学科に、ゴミの流れの中から有害な重金属(クロミウム、銅、鉛、ニッケル、亜鉛)を除去するための研究に対する資金提供の申し出を行った。それに対して大学側から、研究成果として得られた水処理、ないし汚水処理の管理に関する技術に対して、ラモスの会社に占有権を与えることに同意するという返答があった。そしてその見返りとして、大学側は会社から、その技術を利用して得られた利益からロイヤリティを得ることになる。
大学では、ポリンスキーを指導者とする教授グループが、得られた技術(ただし、水処理と汚水処理の管理に関して得られる技術はのぞく)を利用するために、会社を作ることを決定した。
大学がそれに関する研究を行うと同時に、ラモスの会社もそれと平行する研究を行っていた。両方のチームがデータと性能係数をだし、ラモスの会社とポリンスキーの会社は諸結果を自由に共有していた。
後に、その大学の土木工学の教授であるデポニアディスは、汚水処理技術に関する研究を行って論文を公表しようとした。彼は化学科の教授達と連絡を取った。彼らはデポニアディスに対して、ラモスの会社からのデータと、自分たちがテストしたデータを提供した。デポニアディスはそれらが別の二つのグループから得られた結果であるということに全く気づいていなかった。
デポニアディスは成功裡に研究を終え、彼の論文は主要な雑誌で公表された。ラモスの会社から得られたデータは、その論文中で目立つように提示されており、その論文の大きな割合を占めていた。その論文には化学科のメンバーの名前については表示されていたが、ラモスの会社の寄与についてはどこにも述べられていなかった。いずれのプロジェクトに対してもラモスの会社の資金が提供されていたにもかかわらず、である。デポニアディスは後に彼の論文中のデータの主要な貢献者がラモスの会社であることを知った。
デポニアディスが情報源を完全に公表せずにデータを公表したことは剽窃だろうか。ラモスの会社に対して、全面的な謝辞を公表することはデポニアディスの義務だろうか。ラモスはこの論文を発見した後、なにか行動を起こすべきだろうか。もしそうだとしたら、それはどんな種類の行動だろうか。さらなる状況を分析するには、どんな追加的な情報が役に立つだろうか。

−NSPE事例92-7番からの改作

(訳 須長一幸 日本学術振興会特別研究員PD(北海道大学))