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オンラインエシックスセンター(ケースウェスタンリザーブ大学)

伊勢田哲治

 ケースウェスタンリザーブ大学に置かれているオンラインエシックスセンター(Online Ethics Center for Engineering and Science)は、倫理学者のキャロライン・ウィトベック(センター長)を中心とした組織で、科学技術倫理教育の教材の収集と提供を行っている。このセンターは実質的にインターネット上のみに存在するという点で非常にユニークである一方、単なるウェブサイトに留まるわけではなく、コンサルタントにあたる活動も行っている点も特徴的である。以下、このセンターについて簡単に紹介を行うが、センターの活動について知ってもらうには実際にセンターを訪れてもらうのが一番である。URLはhttp://onlineethics.org/である。

1 センターの概要

  センターの沿革と運営形態については、センターのウェブサイトにある紹介文が簡明であるので、まずその紹介文の主な部分を訳出する。

 「オンラインエシックスセンター(Online Ethics Center for Engineering and Science) は1995年秋にNSFのグラントによって設立され、現在もNSFのグラントで運営されている。このセンターの任務は、技術者、科学者、および科学・工学を学ぶ学生に対して、仕事の上で起きる重要な倫理問題を理解し解決するために役に立つリソースを提供することである。このセンターはまた、工学・科学の学生を教育する立場の人々が技術的な内容と関係する倫理問題についてのディスカッションを、科学・工学の授業の一部や専門職倫理や研究倫理の授業内で行いたい場合に手助けをすることも意図している。
センターのウェブページをデザインする上では、読み込みを速くすることに重点を置いた。速さを犠牲にしたのは、情報量の多い画像を入れる場合だけである。このサイトのページはもっぱら学生によって作られている。設立当初はマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生が担当し、1997年以降はケースウェスタンリザーブ大学(Case)の学生が担当している。これらの学生はセンターのデザインと維持に関して、何ものにも変えがたい貢献をしてきてくれている。
 オンラインエシックスセンターの開発にあたっては、選りすぐりの顧問の方々に助言をいただいた。顧問の方々の出身分野は、工学と科学のほか、哲学・心理学・歴史・社会学などであり、さらに、専門職協会、企業、政府団体、学術界などで倫理的行動を監督する責任を持つ立場の人々にも加わっていただいた。
センターは継続的に更新されているが、特に一月と夏に「成長期」を迎える。センターのプロジェクトチームはコメントや提案を歓迎している。センターはケースウェスタンリザーブ大学(Case)に置かれている。もちろん、概念的には、オンラインエシックスセンターは物理的な場所を持たない。つまり、アメリカだけでなくヨーロッパにも同じように存在するということである。サイバースペースを使えば時間と空間をこえることができる。」

2 ウェブ上のリソース

  次に、このセンターがどういう情報を提供しているか、簡単に概観する。このサイトの主なコンテンツは、「工学の実践」「責任ある研究」「道徳的模範例」「多様な職場」「コンピュータとソフトウェア」「自然科学」の五つのカテゴリに分類されている。いくつかの項目にまたがる資料についてはそれぞれの項目のサブカテゴリからリンクされている。サブカテゴリの細部まで紹介するのは煩雑であるので、おおむねの感じを掴んでもらうために「工学の実践」について詳しく説明したのち、他のカテゴリについても簡単に説明する。
 「工学の実践」のカテゴリは、工学倫理全般に関する資料を集めており、「一般的記述」「事例」「エッセイ」「教育的リソース」「問題の解決」「企業における工学倫理」のサブカテゴリに分かれている。「一般的記述」では以下の項目の説明がなされる(ここでの説明も主にこの項目での説明をベースにしている)。「事例」の項目にリストされているのは、スリーマイル島事故など歴史的事例のほか、NSPEのBER (Board of Ethical Review)によせられた事例とそれに対するBERの判断、マイケル・プリチャードが作った事例とコメント、IEEEに報告された事例などである。「エッセイ」の項には歴史的な事例や倫理基準、国際的工学倫理などさまざまな問題についてのエッセイが集められている。「教育的リソース」の項にはシラバスやABETの教育に関する基準のほか、中等教育から大学院にいたるさまざまなレベルで利用できる教材が並べられている。「問題の解決」の項にはセンターへの訪問者から提出された問題や学生への課題として出された問題と、その問題への模範解答が集められている。「企業における工学倫理」の項では、テキサス・インスツルメンツ社からの事例など、企業における工学倫理にかかわるエッセイや事例が集められている。
 「責任ある研究」のカテゴリには、データのねつ造や盗作など、いわゆる研究倫理にかかわる資料があつめられており、サブカテゴリの構成としてはほとんど「工学の実践」のカテゴリと変わらない。「道徳的模範例」のカテゴリでは、ボイジョリー(チャレンジャーの事故について事前に警告を行った)、オースティン(社内での嫌がらせにもかかわらず内部告発を続けた)、カニー(第三世界諸国で人道的な活動を行った)、カーソン(農薬や殺虫剤の使用について警告した)、ルメジャー(自分の設計したシティコープタワーの設計ミスに気づいて自ら警告を発し補強を行った)の五人について非常に詳しい紹介を行っている。「多様な職場」の項はもともとEngineering Coalition of Schools for Excellence in Education and Leadership (ECSEL) のプロジェクトとして開発されたものがオンラインエシックスセンターに組み込まれたもので、職場におけるマイノリティや女性の差別の問題、ハラスメントの問題、外国で仕事をする際の文化摩擦の問題などがとりあげられている。「コンピュータとソフトウェア」というカテゴリで扱われているのは、コンピュータ倫理の問題であるが、その中でも特にコンピュータ技術者の責任に焦点がおかれている。項目の組み立ては「工学の実践」のカテゴリや「責任ある研究」のカテゴリと大差ないが、「プライバシー」というサブカテゴリが別に立ててある点が目立つ。「自然科学」のカテゴリは「生物学」「環境」にわかれており、これらの分野に特有の問題に関する資料が集められている。
 その他のコンテンツとしては、科学技術倫理に関わる用語をあつめた用語集や、各種団体の倫理綱領集のページも作られている。実際、もっともアクセスが多いのはABETの認定基準や倫理綱領をあつめたページだとのことである。

3 ヘルプラインの活動 

  オンラインエシックスセンターの活動としてもう一つ特筆すべきことは、「ヘルプライン」として、倫理問題に直面する技術者や科学者へのアドバイスを提供している点である。このヘルプラインの意図は、「仕事において倫理問題に直面する科学者、技術者、訓練生にアドバイスを与えること」であり、主な目標は「科学者や技術者が複数の(そして潜在的に対立する)責任に直面した際に、仮にそれが上司たちと対立することにつながろうとも高い倫理的基準を維持しつつ賢明に行動するよう助けること」である。このヘルプラインはオンラインセンターだけでなく、IEEE (Institute of Electrical and Electronics EngineersやNIEE (National Institute for Engineering Ethics)のサポートもうけている。
ヘルプラインとの連絡の手段は基本的にはE-mail である。E-mail はまずオンラインセンターのスタッフにおくられ、そこから相談員へと転送される。相談員となっているのは科学者や技術者が直面する倫理問題に詳しい科学者・技術者・エシシストらで、IEEEがスポンサーとなっているエシックスホットラインで相談員を行った経験のある者も参加している。
 ヘルプラインはどんな相談でもうけつけるわけではない。まず、ヘルプラインは学生の宿題の手伝いはしない。また、ヘルプラインは倫理と関係のない会社関係の苦情は扱わない。法律相談も行わない。さらに、ヘルプラインが独自に事情を調査することはない。また、ヘルプラインの使用上の注意では、これはオンブズマンやエシックスオフィスにとってかわる意図で運営されているものではなく、できるだけさまざまなリソースを併用してアドバイスを受けるように注意をうながしている。