密度行列に基づく量子力学の新理論

全ての物質は量子力学に従うため、全ての情報は波動関数に含まれる。この世界には2体力しか存在しないため、波動関数より簡単な密度行列を使っても、情報は全く失われない。そこで波動関数を密度行列で置き換えた、量子力学の新理論を構築している。またこの理論をクーロン力で相互に力を及ぼす多体系である、原子、分子に応用している。

基本的なアイデア

1 原子、分子の理論研究(量子力学)の重要さ
原子分子は我々が自由に操作できる最小レベルである。
原子(原子核と電子)を操作して、複雑な構造を持つ物質を作れるが、 陽子や中性子を同じように操作出来そうにない。そこで原子分子を研究する物理や化学は、学問や実生活で特別の位置を占める。経験的な学問だった物理や化学は、量子力学と電子計算機の発展で、理論研究に変わりつつある。

2 物質の性質の理解には、電子の運動の理解が必要である。
物質は何種類かの原子核と、全て同じ質量、電荷の電子からできている。 物質がバラバラにならないのは電子が原子核をつなぎ留めているからである。 電子の運動が、物質の形や性質を決める。

3 電子の全ての情報は、波動関数に含まれる
電子は量子力学という法則に従って運動し、全ての情報は波動関数Ψに含まれる。それは次の2つの条件を満たす。

粒子が互いに力を及ぼしながら運動する場合、上の方程式から、全ての情報を担う波動関数Ψを求めるのは難しく、特別のアイデアが必要である。 量子力学の特殊な場合である古典力学でさえも、この力はカオス等の複雑な現象を生み出す。これまで変分法、摂動法を始め、多くの方法が開発されたが、決定的なものは無い。

4 この世界は3体力が存在しない特殊な世界である。
原子核や電子の間にはクーロン力という特殊な2体力が働いている。2体力では、 粒子1が粒子2と3から受ける力が、1が2から受ける力と、1が3から受ける力の和 となる。3個の粒子があって始めて生じる3体力は存在しない。 これはどんな簡単化をもたらすだろうか? 波動関数を決める波動方程式は3体力があっても同じ形で、この特殊性を使っていない事は明らかである。

5 波動関数より簡単な密度行列を使っても、情報は全く失われない
電子は全て同じ質量と電荷を持ち、区別できない事、また2体力しか存在しない事から、 知り得る全ての情報は、波動関数より簡単な、密度行列Γ(ガンマ)という関数で表現できる。

それは次の2つの条件を満たす。


密度行列を決めるこの条件は、波動関数を決める条件と全く等価である。2体力しか存在しないこの世界では、波動関数より簡単な密度行列を使っても、情報は全く失われない。

研究目的

量子力学で伝統的に使われてきた波動関数を、密度行列で置き換える、新理論の構築

これまでの困難とブレークスルー

1 表現性問題
電子の波動関数には、2個の粒子の交換で符号が変わる、反対称的なものだけ許される。 そこで許される密度行列もある条件を満たすはずである。意味のある密度行列はどんな形か?
密度行列は波動関数Ψの変数を次式のように幾つか積分するが、

なくなった変数間の反対称性をどう課すのか?
数学者の長年の努力にもかかわらず、この表現性問題は未解決である。 そのため波動関数の代わりに密度行列を使うことは出来なかった。

2 近似的な表現性条件
数年前私達は、物理学で使われている多体摂動論を使って 近似的な表現性条件を課す事により、始めて波動関数を使わずに密度行列を求めた。 密度行列は多粒子グリーン関数の特殊な場合であり、ファインマン図形を使い解析できる。この方法により表現性問題を完全に解決しなくても、密度行列に基づく量子力学が作れることが分かった。

この理論はを有限温度に一般化できた。 また表現性問題を物理学の方法で解析している。