密度汎関数理論の開発

各種の分子や固体の違いは、原子核の種類や位置だけなので、最安定状態の波動関数の代わりに電子密度を使っても、情報は全く失われない。そこで電子密度をもとめる、効率的な量子力学理論を開発している。またこの理論を分子や固体に応用する方法を研究している。

基本的なアイデア

1 原子、分子、固体の理論研究(量子力学)の重要さ
原子分子は我々が自由に操作できる最小レベルであり、
物質の性質の理解には、電子の運動の理解が必要である。
電子の全ての情報は、波動関数Ψに含まれるが、
複雑な多変数関数である、波動関数を求めるのは難しい。

2 波動関数より簡単な電子密度を使っても、情報は全く失われない
個々の分子や固体の差とは、結局どの原子核をどこに置くかの差しかない。 そこで、最安定状態の波動関数の代わりに全電子密度が使える。1変数関数である電子密度は、多変数の関数の波動関数より単純である。、電子密度は各粒子が独立に共通の有効場中を運動する簡単な問題を解いて得られる。 密度汎関数理論と呼ばれるこの理論により、分子、金属や半導体の性質が計算機シミュレーションで予想できるようになった。現在では計算機シミュレーションの専用プログラムが販売され、大学や企業で使われている。1998年度のノーベル化学賞は密度汎関数理論の開発者、w.kohnら与えられた。

3 密度汎関数理論の弱点
この密度汎関数理論では、電子密度を求めるために、有効場が必要である。波動関数の複雑さを、有効場の複雑さに置き換えているが、その正確な形はまだ不明である。そこで一様な電子ガスのエネルギーを使うが、分子や固体の電子密度は一様とは程遠い。そのため、分子間に働く弱い力が表現できない。また最安定以外の状態も扱えない。

3 密度行列汎関数理論
電子間にはクーロン反発力しか働かないため、基底状態の1次密度行列を使っても、情報は全く失われない。この密度行列汎関数法では、密度汎関数法より、必要な有効場は単純であり、密度汎関数法の弱点を克服できる。しかしその実用化を目指した研究はほとんど無い。

研究目的

密度汎関数理論にかわる新しい理論、密度行列汎関数理論を構築する。

理論

最安定状態のエネルギーEは、その状態の1次密度行列の汎関数e[γ]である。密度行列汎関数法で必要になる有効場は、エネルギー汎関数のγに関する汎関数微分である。e[γ]の形をどう決めるか?与えられた核配置が与えられた時に、1次密度行列やエネルギーを決める事すら難しい。1次密度行列γからエネルギーe[γ]を決める問題はさらに難しいそうである。

私達は密度行列から核配置を決める理論を発見し、これに基づいてエネルギー汎関数を構築した。この結果を幾つかの原子、分子で検証した。原子や分子の厳密な1次密度行列γを求め、近似エネルギーと真の値を比較したところ、相関エネルギーの98%近くが得られ、この方法が大変有効だと分かった。